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世界の支配者

2009年11月30日 23:55

ジュール・ヴェルヌ』著 榊原晃三 訳 集英社文庫 267ページ

集英社のジュール・ヴェルヌ・コレクションの最後の翻訳。
ヴェルヌが亡くなった年の、前年に書かれた作品。
ひっぱった挙句に、アッサリ終わる感じで、拍子抜け感はあるけれど、奥が深い。

<あらすじ>
アメリカ、グレート・エアリー山で、謎の事件が起こる。
火山性ではない地面の揺れが起こり、山の頂に噴火のような火を見たという証言が起こった。
また、周辺の村人たちの中には、「鳥が羽ばたくような音」を聞いたという者もいた。

警察官のストロック警部は、グレート・エアリー山の調査に乗り出す。
その山の内輪を調査し、現象の原因が火山なのか、それともまた別の理由なのかを調べるためだ。
しかし、山は岩壁がそそり立ち、結局はその内輪を見る事は叶わなかった。

その後、あいついで奇妙な事件が次々と引き起こされる。
ミルウォーキーでの自動車レースでは、300キロの速度で競争車を追い抜く、謎の自動車が現れた。
海上では、どんな船も出す事ができないスピードの高速船が現れた。
また、山に囲まれた湖の底では何かが水の底で振動し、水面を波打たせていた。

アメリカ政府は、それらの現象を、一つの乗り物だと断定した。
すなわち、高速の自動車であり、船であり、潜水艦であると結論付けたのだ。
それはなんという科学力、原動力だろうか!各国政府は乗り物を高額で買い取るため、
その未だ謎の人物に、正式に声明を発した。その乗り物の原理を知る事が出来れば、
どれほど軍事力の強化につながるだろうか。競り値は上がる一方だった。
しかし、謎の人物は傲慢な態度で、その申し出を断る手紙をアメリカ政府に送りつけた。

「わが輩の乗物を獲得するために提示された価格を絶対的かつ決定的に拒否する。
 新旧両大陸は知るべきである。わが輩には絶対に対抗できぬ事を -世界の支配者-」

この返答に、彼は「悪」とみなされた。逮捕状が出され、指名手配となった。
ストロック警部はこの事件にあたった。そして、乗物が接岸したと報告が入った湖へでかけていく。
しかし、乗物に乗っていた乗組員と撃ち合いになり、警部は乗物に連れ去られてしまう。
彼がその中で出会った人物…それこそ、かつて飛行船「あほうどり号」で時の人となった、征服者ロビュールだった。
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「征服者ロビュール」に引き続いた続編。また、拉致されてます。ヴェルヌは誘拐が好きだね。
1作目の「あほうどり号」から、さらに進化し、「エプヴァント号」という乗物になっています。
陸、水上、海底、空と4つのモードで対応可能で、まさに夢の機械。
ヴェルヌはこれまで色々な発明品を登場させていますが、これは最上、最強クラスです。
動力は、やはり電気。その仕組みは、空気中の微量な電気を動力にしているのだとか。
ちなみに、ノーチラス号もその原理で動いているらしいです。初めて知りました。

今回感じたのは、ヴェルヌの科学に対する考え方の変化。
元来、科学の発展に期待を持てるような小説を書いていたヴェルヌですが、
晩年になるにつれ、その科学を「悪用」する人物が増えていきます。

本作では、ロビュールは「エプヴァント号」を「悪用」はませんが、世論には「悪」とみなされます。
各国は軍事力のために(科学を戦争に使うために)、乗物を手に入れようと競り合いますが、
ひとたび、「エプヴァント号」が手に入らないと分かれば、手のひらを返して指名手配をかけるのです。
当時の戦争を見て、「科学は悪用されるものだ」とヴェルヌは痛感していたのでしょう。
1作目「征服者ロビュール」の中の、「諸君はまだおのれの利害しか考えない。国と国とが手を結ぶには、
まだ機は熟していないらしい」というセリフは白眉。二作目にして活きてきます。
この人間の愚かさをさりげなく描いているヴェルヌはさすが。晩年の心境も如実に表れています。

そして、もう一点はロビュールを見たときの、自然に対する科学の限界。
ロビュールは1作目では、若年気質のいやみっぷりを見せるような人物でしたが、
今回は打って変わって、セリフもほとんど無く、狂人チックなキャラクターへ変貌しています。
彼は、科学に対する傲慢な自信を持ち続け、最終的に嵐に挑んで乗物もろとも墜落して死んでしまう。
今でもクローンなどの科学のタブー分野は一つの論点になるけれど、
すでにヴェルヌもこの科学が侵してはいけない自然の境界線を感じていたのだろうと思う。
そして、ヴェルヌの答えはロビュールの死という形で明確に出ています。

作品の中で、ストロック警部がロビュールに、自分をどこへ連れて行く気だ?と
問いかけるシーンがありますが、その時、ロビュールは無言で空を指差します。
嵐に飛びこんでいくときに、ストロック警部は「法の名のもとに…!」と彼を止めようとしますが、
上を目指しすぎた科学(者)を、「これ以上いくな!」と引きとめようとする姿にも見えます。

テーマが重い内容なだけに、やはり人間描写の苦手なところが目立ちました。
晩年になって、読みやすさもさすが円熟してきた風がありますが、
その円熟と共に、人間味の部分も合わせて描きだして欲しいのが残念なところ。
ロビュールが狂人になってしまったのも、描きやすい「狂人」というキャラで終わらせてほしくなかった。


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