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ナポレオン狂

2008年08月18日 21:14

『阿刀田高』著 講談社文庫 279ページ

阿刀田さんの作品では、初めて「小説」の分類に入るものを読みました。
いや、正直侮っていましたが、すごい作家です。
短編が14話収録。どれも発想豊かな作品ばかりです。

「ナポレオン狂」は、第81回直木賞に選ばれた作品で、作家としては初期のもの。
阿刀田さんは自分のエッセイなどで、よく昔の作品の誕生秘話みたいなのを紹介してますが、
過去にナポレオンに関するものを、何でも集めたがる紳士と知り合いになった時、
この人がナポレオンの生まれ変わりに出会ったらどうなるだろう、と考えたのがヒントになったのだとか。
すでにこの時点でゾッとする話に仕上がりそうです…。

30ページ前後の短い作品ばかりなので、読むのはたやすい。
しかし、よくもまあこんな少ない枚数で、内容の濃い作品を仕上げれるものかと思います。
最後の最後でドンデン返し、頬の筋肉がひきつるような奇妙な怖さが押し寄せる。
いや、「怖さ」という表現は何かが違う。ユーレイやら、オカルト的な怖さではなく、
人間が持っている「怖さ」。読みながら頭の中に、普通の日常を描いていたはずなのに、
いつのまにか「何かが奇妙な」感じになっていく。

私が一番ゾッとしたのは、第32回日本推理作家協会賞受賞の「来訪者」。
ある女性が出産後すぐに発熱性の病気にかかり、病院の雑務婦に赤ちゃんの世話を任せていたことがあった。
生まれてすぐに子供の世話ができなかったという悔しさは残ったものの、雑務婦のおかげで治療に専念することができた。
その雑務婦の方でも、心づけを弾んだこともあってか、特に親身になって世話を焼いてくれたようだった。

病院を退院してから、雑務婦はたまに家にやってきた。
若い母親は、病院勤めから、楽な家政婦へ仕事を変えたがっているような態度を彼女に見てとり、腹立たしさを覚えていた。
もちろん、娘が生まれた時は世話になったけれど、いつまでも、恩着せがましい態度をされてはかなわない。
少し懇意にしていたからと言って、彼女を雇って、自分たちの家庭を土足で踏み荒らされるような真似はされたくなかった。
それに、自分が知らないだけに、「生まれてすぐの頃は…」なんて話をされると、母親は妙に憤りを感じるのだった。

雑務婦は二、三か月ごとくらいに家へフラリとやってくる。今日も、いつもと変わらない様子だった。
「少し近くにきたものだから、挨拶でもと思って」
早く帰ってほしいオーラを露骨に示すのだが、よほど鈍いのか帰ろうとしない。
それどころか、馴れ馴れしく赤ちゃんを世話する彼女に、母親は少し気味の悪いものを感じた。

雑務婦が帰った後、自宅へ警察がやってきた。
要件は、先ほどまで家にいた雑務婦当人の事だった。
不安に駆られながら、どうしたのかと刑事に聞いてみると、殺人の容疑だという。
雑務婦には一人の娘がいたが、どこの馬の骨とも知らない男と関係を結び、子供を出産。
生まれた次の日に、その赤ちゃんを母親のもとに残して行方をくらましてしまった。

殺したのはその赤ちゃんで、庭に埋められて白骨化しているのが見つかったのだそうだ。
恐らく、経済的な理由で育てる事が出来なかったのだろう。それにしても…
さっきまで殺人犯が傍にいたことを思うと、ゾッとすると同時に、愛しい我が子の無事を喜ぶ母親。
自分の孫を殺したことで、幸せに見える私たちがう羨ましかったのか。それとも子供を奪おうとしたのか。

しかし…刑事の話だと、子供が殺されたのはちょうど一年前くらいだという。
一年前といえば、自分が出産した頃だ。そして、死んだその子供は「女の子」だったそうだ。
自分の子供も女の子だ。彼女の心にさっきまで気味の悪いほど赤ちゃんの世話を焼いた雑務婦の姿が浮かぶ。
彼女が部屋に戻り、乳児ベッドでまどろむ赤ちゃんをのぞき込むと、その顔はどこか雑務婦に似ていた…。

登場人物も平凡。舞台も日常的。
しかし、ブラック・ユーモアはそんな何気ないところから生まれ出る。
その落差は紙一重。だから読む側も、肌を立てながら堪能できるのでしょう…。


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