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だれかに似た人

2009年08月30日 23:45

『阿刀田高』著 新潮文庫 348ページ

いつか、阿刀田氏の作品の出してる文庫は全部読んでやろうと目論見中。
wikiで見る限り、出してるタイトルだけでも約150。道は遠い…。

前回と同様に、「小説新潮」へ掲載された、短編10篇を収録。
「だれかに似た人」というタイトル小説があるわけではなく、
「だれかに似ているが、だれとは特定できない男女の物語」、というテーマ。

ホラー小説…とはちょっと意味合いが違うかもしれないけれど、
異界への扉とか、奇妙な一致とか、オカルト色が強い。

「Y字路の街」   「無邪気な女」
「灰色の名簿」   「黒い数列」
「愛妻物語」    「明日を売る女」
「海の蝶」      「女体」
「孤独な舞踏会」 「奇談パーティ」

頑なに夫の愛撫を拒んでいた妻が抱えた、過去のトラウマとは…。
妻の女体を隅々まで正確に写し撮った写真を眺める男…。

基本的には、男女の関係…ということなので、艶めかしい話が多い。
年季の入った小説家の手にかかれば、情事の描写も、ある種のイラらしさが出ない。

コラムニスト、ミステリ評論家、香山二三郎氏が書いた解説もGood 。
阿刀田さんの書く「不気味さ」を的確に表している。

「残酷シーンをリアルに描き込むことが読者や観客に著しい
 恐怖のみを喚起させるとは限らない。前述したように、スプラッタ・ムービーの中には
 いかもの趣味を逆手に取ったスラプスティック調の怪作さえ現われてきている。
 残酷シーンの多くは生理的な恐怖を与えるが、それも度を超えるとお笑いになってしまうわけだ」

スプラッタを外面の怖さと言うなら、阿刀田さんは内面の怖さ。
これと同じような事を、前にもホームズで書いたけれど、ドイルの小説もまさに同じ。
先日聞いた怖い話で、「猿の手」っていうのがあったけど、これも扉を開けてしまってたら、
どうなっていたか分からない…そういう「分からない」「見えない」ものへの怖さが堪らなかったです…。
阿刀田さんの薄気味悪さと少し似ているなぁ…と感じましたね~。


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あやかしの声

2009年08月27日 23:51

『阿刀田高』著 新潮文庫 271ページ

1996年の作品を文庫にしたもの。阿刀田さんはかなりたくさん作品を出してますが、
作品数でいうと後半の方のものになるためか、より目の付けどころが上手い。
阿刀田さんお得意の「不気味」さが後引く。前に紹介した「七つの怖い扉」に似てるかも。

ドスンと落とし込むオチをもってくる話もあれば、奇妙さを漂わせて終えるのもアリ。
地下鉄サリン事件を題材においた「背後の足音」は、最後の追記を読むと、
阿刀田さんらしい事件への想いや、気遣いが感じられる。

計11の作品を収録。
「背後の足音」    「死の匂い」
「愛のすみか」    「車輪の下」
「気弱な恋の物語」 「鼻のあるスクープ」
「灰色花壇」      「弁当箱の歌」
「俺の力」        「鉢伏山奇談」
「あやかしの声」

ところどころに関係のなさそうな伏線を張り、うま味を利かせる…的な事を、
巻末の解説でルポライターの朝山実さんが書いておられますけれど、
その微妙な一スパイスが、同じような数ある短編でも抜きんでる秘訣なんだろうと思う。

「あやかしの声」では、古い書物のつぶやきが聞こえてくる…という内容ですが、
エジプトのアレクサンドリアで、世界最古の図書館跡地へ赴いた主人公が、
不思議な老人に連れられて、重なった石の奥から聞こえるブツブツという声を聞く。
その主軸の脇には、妻の知り合いで本を出版したという人物が…。

こういう伏線が、やっぱりベテランはすごいんだろうなぁ…。
阿刀田さんは直木賞や、乱歩賞などの審査員をやってますが、
やっぱり大衆小説家というカテゴリーになるのかしら…。
人間を掘り下げる…純文学とは違うものの、そういうところまで、
この方なら考えてそうだなあ…。


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ドグラ・マグラ 下

2009年07月31日 21:13

『夢野久作』著 角川文庫 382ページ

「これを書くために生きてきた」
10年あまりの推敲を重ねて完成されてた本作。
これを読まずしては夢野久作を語れないであろう集大成。

今年2009年の「角川文庫 夏の100冊」にも入ってますね。
上巻を読んで、しばらく時間が空いてたので、内容忘れてました…イケナイ…。
読むなら一気に読んだ方がいいかも。話がヤヤコシイので、忘れます。
上巻参照→http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-267.html

んー…正直に申しますと、宣伝文句ほどの奇書でもなかったように思います。
この作品の主眼になっている「心理遺伝」の内容は、たしかにユニークで、
「常人には考えられない」と言われれば、そうかもしれません。

一つ一つの細胞には、それぞれに記憶があり、
そして先祖から受け継がれてきているのだ。
人間が意識がないのに夢遊をしたりするのは、これが原因。
つまり、現代通説になっているようなのとは違い、脳髄はものを考えるところに非ず。

主人公を材料にした、二人の博士の化学実験、代々、男を狂人へと変えてしまう絵巻物の謎、
推理小説と云えばそうかもしれないけれど、到底そのカテゴライズで収まるものではない。
記憶喪失の主人公が、自分が誰か分かったときに、すべてが解決するものだと思っていたら、
「ん?なんだかよく分からんうちに終わってしまったぞ…」というような気持ち悪い感じ。

分かったようで、分からない。
表紙の異様さや、各方面の称賛の言葉を、まともに受けて読んだら、
違う印象を受けることになるでしょう。ただただ、異様。それにつきるのみ。
この内容で、ここまでひっぱる必要もなかったのではないかな、と。

読みにくさが最大の難点。
「晨(アシタ)に金光を鏤(チリバ)めし満目の雪、
 夕には濁水と化して河海に落滅す」
こういった参考文献的部分に関して、いやぁ骨の折れること。
さらーっとなら読めるけど、頭に入れないことには真相が分からない…難儀なことで。

根気よく、じっくりと、そして内容を忘れないように(笑)、
夢野久作ワールドに浸るのも楽じゃありません。
彼の作品を読む時、最初の一発目に「ドグラ・マグラ」はキツイです。
「人間腸詰」など、いかがでしょうか。
参考→http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-253.html


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Vの悲劇

2009年06月27日 21:32

『阿刀田高』著 講談社文庫 303ページ

阿刀田さんでは、あんまり読まない長編推理小説。
やっぱり阿刀田さんは短編の方が面白いかな。
文章の書き方も、その方がマッチしてるし、しっくりくる。

二つの謎が交錯する推理小説。
一つは死んだ父親に愛人がいた事実が判明し、その愛人の家に
主人公の安津子は行った記憶がかすかにあること。
その家で嗅いだ、香水の匂いが、父の葬式の時にも香っていたこと…。

もう一つは、自分の恋人の死。
不倫の仲だった智生は、安津子の友人、茂美の旦那だった。
友達の夫と恋仲になることは、安津子にとっても後ろめたいことだ。
これで最後…と思って、那須のコテージへ泊まりに行ったとき、
何者かによって、智生は絞殺されていた。
そして、現場に残っていたあの香水の香り…。

「香り」によってこの謎が結びつき、その先にどんな事実があるのか…。
ガッチガチの推理小説というわけではないし、残酷なシーンが出てくるわけでもないから、
肩肘張らずに読むことができます。
阿刀田さんによく親しんでいる人なら、いつものあっという落とし所や、
ブラックユーモアじゃないから、物足りないかもしれません。

こういう長編にも挑戦しているんだな~くらい。
前に阿刀田さんは、短編小説家が長編を書くときは四苦八苦すると
何かの折に書いていたことがありますが、これもそうなのかなぁ…とか考えました。
私のような素人が読む分には全く分かりませんけれどね…(笑)。


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津軽

2009年05月20日 23:24

『太宰治』著 新潮文庫 212ページ

太宰治にこんなにハマるとは思わなかったなあ。
彼の人生が作品に大きく影響していることを知れば、
一つ一つがとても面白くなることは前に書きましたが、
この「津軽」こそ、太宰治の人となりが分かる作品です。
今まで読んだ中では、一番面白かったです!

太宰治の人生については前回を参照↓
http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-293.html

津軽風土記を書くために帰郷し、東海岸から西海岸、北は竜飛まで
ぐるりと巡る旅であった。途中、生まれ故郷の金木へもより、
久しぶりに兄弟、親戚と再会している。

作品を読んだ上で津軽人の印象を述べるとすれば、「不器用」の一言に尽きる。
愛情表現が下手で、苦労の割には損をするタイプ。

たとえば蟹田のSさんなんかは、その気質を大いに表していて、
友人を接待するときに、どうしていいやらわからず気だけが急いて、
あれやこれやとチンプンカンプンな振る舞いをした揚句に、
後で行いを恥じて、すいませんと謝るようなことになってしまう。
太宰治も作品の中で読者に対して気を使っているが、
Sさんの不器用さと同じようなサービス精神が伺える。

故郷にも立ち寄っているが、そこでは気を揉み、よそよそしい。
しかし、旅の最後に立ち寄った小泊では、幼いころ母のように慕っていた
女中の「たけ」に会い、心の底から安心して何でも話している。
六男坊として生まれて、劣等感の塊のような生い立ちを持つ太宰の、
飾らないありのままの姿を見て、作品は幕を閉じる。

基本的に太宰治は酒飲みで堕落している自分に、
「俺はなんてダメな奴だ」と嘆いている節がある。
親類と縁の薄い太宰にとって、すべて受け止めてくれる「たけ」との再会が、
ひとしお感動を誘い、いつのまにか読む側までもが安心してしまうのだ。
よく、後書きなんかで「読者は太宰と同化し、魅了される」と書かれているが、
ああ、これがそうなのか、とやっと実感しました。

しかし、どうして、この太宰治という人…憎めないキャラだ。
この作品で「津軽人」の気性を知れば、なぜ彼が憎めないのかとても理解できます。


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コーヒー党奇談

2009年05月07日 22:53

『阿刀田高』著 講談社文庫 348ページ

阿刀田さん出現率高いですね。忙しいとついつい手が伸びる…。
短編12篇を収録。いつもの奇をてらった様なのではなく、
物悲しいような、不思議な雰囲気を醸し出す作品集でした。

アムステルダムでふらりと立ち寄ったカフェ。
そこで飲んだアイリッシュ・コーヒーが抜群に美味かった。
店主は「東京においしいコーヒーの名前をつけた街がある」という。
主人公の隆二はその街で10年後の同じ日に再開すると約束する。
東京のどこかな…というのが分かったときには「あ~~」と思う。

今回は日本の話が多くて、「新諸国奇談」とはまた違った面白さがある。
基本的に落ち着いた作品が多いので、予想できないようなオチをつける
阿刀田さんが好きな人には、少し物足りないかもしれません。

「新諸国奇談」→http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-255.html

私も、まさか!という展開を期待する傾向の人なので、
印象に残る作品はそんなになかったかなあと残念に思いました。
哀愁を楽しむには、まだ早すぎるというところでしょうか。


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踊る男

2009年04月28日 01:18

『赤川次郎』著 新潮文庫 196ページ

久々の赤川さん。
古本屋でのこの人のスペースは半端なく広いですね。
5~6段分くらいはゆうに占拠してます。
三毛猫ホームズのシリーズなんかは40作もあるんですね。
シリーズは制覇しないと気が済まない某氏は、なかなか手が出せないそうです。

今回はショートショート34篇収録。
赤川さんのショートショートは初めて読みました。
この分野はユニークさと落とし所が勝負だと思うのですが、
赤川さんもこの分野に関してのお力を充分に持っておられるようで、
一般人には思いもよらない着眼点でオチを持ってこられます。

初めて読む人に、ショートショートとはこういうものなんだ、
というお手本になる一冊だと思います。
最後の一行でガラリと変わるお手並みは、
いろんな作家のショートショートと是非読み比べていただきたいところ。
それぞれの「味」というものがあって、楽しめると思います。

個人的に好きなのは「命取りの健康」。
ジョギングを始めた夫が、せっかく痩せたのに食べて太り、
またジョギングをしては食べて太りを繰り返していた理由…。

「むだ遣いの報酬」なんかは夫の小遣いを切り詰める奥様方が身につまされる内容。
ネタが言えないところが非常に残念なところです。
読みやすく、流れがとても整っているのですぐに読み終わってしまいました。


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ジョークなしでは生きられない

2009年04月24日 00:41

『阿刀田高』著 新潮文庫 327ページ

三人の娘を無事に嫁がせ、亡夫の年金でつつましく暮らしている
未亡人のもとに三人の娘が里帰りして来た。

母親が、「みんないいご主人を持ってしあわせそうだけど、
御主人の持ち物はどんなぐあいだい?あのほうに不足はないんだろうね」
すると長女が答えた。「うちのは細いけど長いわ」未亡人がうなずいて、
「そうかい。さじが壺のそこまで届くのはいいものだよ」
次女が答えて、「彼のは短いけど太いわ」
「ピッチリびんの蓋がしまるのもわるくないねえ」
三女が顔を赤く染めて、「うちのは細くて短いの。でも毎晩かかさずにやってくれるわ」
未亡人は深くうなずいて、「そうかい、そうかい。たとえわずかでも年金がきまっておりるのは心強いからねえ」


と、こんな具合に小咄たくさん盛り込まれたショートショートが、ざっと90篇。
もともと小説新潮のカラーページに連載されていたもので、軽くて読みやすい。

内容は上のような、ちょっとエッチなジョーク満載。
阿刀田さんのお得意の分野ですね~~。
思わず吹き出してしまうのもしばしば。
巻末の「広辞苑」ならぬ「広辞艶」も味が効いている。

人間だれしも興味ある事ですから、読んでて疲れません(笑)。
カラーページといえども侮れませんね、これだけ同じテーマで
90篇も書いてるのに、文庫にまとめられても飽きない。

最後に広辞艶の「ヒ」の段から。

ヒットラー … 自己主張の強い人であった。
         だから挿入の時にも彼はハッキリと自分の名を叫んだ。
         「はいる、ヒットラー!」


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斜陽

2009年04月21日 00:40

『太宰治』著 新潮文庫 206ページ

おもしろい。

太宰治で素直にそう感じたのはおそらく今回が初めて。
作品自体の出来がいいから…というのもあるでしょうが、
それ以上に作家の考え方がやっと自分に染みてきたのだと思います。

津軽のお金持ちの家に生れ、六男坊という家長制度下では
さして重要でない立場にいた太宰は、乳母や下男と親しみ育った。
周りからはお金持ちのことして特別扱いを受けるが、
やがてその地位が他人を搾取した上で築かれたものである事に気づく。

デモクラシーやマルキシズム運動の流れが主流になりつつある頃、
自分の立場が罪に感じ、その運動に参加することで紛らわしていた。
しかし、徐々にその運動にも違和感を覚え、残る道は自らの死だけであると思い、自殺を図る。

「人間失格」では、真に人間であろうとするほど、この世は生きにくいものなのだ…
という主張が読み取れたが、そこから分かるように元来この作家は純粋すぎたのだ。
ただ、太宰治は「負」の作家というだけではない。「走れメロス」のような人間の可能性、
希望を(それは理想に近いかもしれないが)見出そうともがいた作家だった。

さて、「斜陽」では4人の人物が登場するが、それが一人一人太宰治の姿なのだと分かる。
気高く最後まで「貴族」でありたいと願う自分(階級的な貴族ではなく、心の気高さをもつ意味の「貴族」)。
コンプレックスに悩み、デカダンに遊楽し逃げている自分。
それぞれが揺れ動く作家自身を投影している。

太宰治の人生を知ったとき、私たちは作品の中に彼自身を見つけることになる。
その悩みに同調し、かくもこの世は生きにくいと心は揺れ、その中でも希望を見つけたいと望む。
「斜陽」では、その悩みを映しているのが自殺をする弟、直治であったり、
流行作家だが虚しい放蕩の毎日を繰り返す上原であったりする。
逆に、気高く死んでいくママや、主人公のかず子なんかは「希望」であったりするのだろう。

太宰は40歳を手前に自殺するが、最後の作品となった「グッド・バイ」や、
ひとつ前の「人間失格」が物語るのは「かくもこの世は生きにくい」ということだ。
最終的に彼の行きついたところは、やはり「希望はあくまで希望であった」ということか。
はたしてそれは定かではないが。


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猫を数えて

2009年04月03日 00:56

『阿刀田高』 講談社文庫 314ページ

最近読むのが増えてきた阿刀田さんの短編。
日常生活に追われている時は、やっぱり基本的に
「読んでて疲れない本」を手に取ってる気がします。

難しい本も面白いけれど、やっぱり阿刀田さんの名前があると、
優先的に手を伸ばしてしまう。かといって軽いわけではないのがこの作家のスゴイところ。
一冊だいたい、短編が10篇で「ははぁ、なるほど」と思える節は幾度かある。

今回は男女の恋、それも大人の恋をテーマにしたものが多かった。
その中でも、私の「なるほどなあー」は、恋愛の4分の1確率の話。

「そう。簡単なことだよ。男と女がいて、どっちも関心がなきゃ、なにも起こらない。
 男が好きでも女が厭なら、これも駄目。その反対に女が好きでも男が厭なら、やっぱり駄目。
 男が好きで、女も好きで、このときだけうまくいく。確率は四分の一だな。
 うまくいかないほうが三倍多いんだ」    (第五話 『恋の確率』 より)

この発想はすごい。もちろん人間の感情はそんな単純なものじゃないと思うが、
こんな風に言われてみれば妙に説得力がある。

阿刀田さんの短編は、そういう「絶妙」な言い回しが多い。
だから読んでて飽きない。大きなテーマを積み上げて積み上げて、ワッと出すのでなく、
現代的なアフォリズムを小出しにしていく感じ。

この奇妙な共鳴が、短編ファンの多い理由なんだろうと思う。


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危険な童話

2009年03月25日 00:09

『阿刀田高』著 新潮文庫 287ページ

一昔前に「本当は怖い○○」というようなタイトルで流行ったのがありましたね。
その類のかと思ってたんですが、全然違いました。
阿刀田さんの本来の分野で、現代もののショートストーリーでした。

10作品の収録ですが、どれもユニークなものばかり。
のほほんと読んでたら、最後の2、3ページでいつも驚かされます。
なんかこの感じ、デジャヴだなーと思ってたら、あァ…あれです、
「世にも奇妙な物語」です。あれに似てました。

あからさまなホラーではなく、異様な薄気味悪さにゾッとするような作品ばかり。
この独特なセンスは本当にすごいな~と思います。

阿刀田さんの短編は、いうほど読んでないんですが、
どっちかっていうとこの人は、ちょっと気味の悪い話のほうが合ってる気がする。
ほっとするストーリーや、ギャグみたいなのも勿論おもしろいんですが、
やっぱりキレがあって「うまい!」と思うのは、今回みたいな短編。
なんていうか…、奇妙なところを見つける発想が鋭いという感じ。

お気に入りは「茜色の空」。
同窓会で40年ぶりにあった親友と、子供のころ、
夕陽の校庭でした友情の誓いを語り合う。
懐かく、切ないような、それでいて温かい気持ちになったところで…。
ドンデン返しがキツい。実にシュールだ。

一つの長さも30ページ前後とちょうどいい。
一日とかからず読めてしまいます。


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ヴィヨンの妻

2009年03月24日 00:47

『太宰治』著 新潮文庫 173ページ

なんだか知らないけれど、不思議な魅力のある作家。
今回ので太宰の本は、新潮文庫にして3冊目になるけれど、
楽しい気持ちになる作品が少ない割に、妙に気になる作家だ…。

収録作品は以下の8作品。

・親友交歓   ・トカトントン
・父        ・母
・ヴィヨンの妻  ・おさん
・家庭の幸福  ・桜桃

正直、私の読みが浅いので、太宰が何を言いたかったのか、
8作品を通してあんまり理解することができなかった…。

表題作の「ヴィヨンの妻」は、放蕩者の夫がしでかした盗みをきっかけとして、
妻は料理屋で働くことになる。新しい生活に喜びを見出す妻と、変わらず酒を飲み続ける夫…。
最後に妻は他の男に犯されるが、「生きてさえいればいいのよ」と
夫に何も話すことなく、いつものように働き続ける。

暗いストーリーの割には、あっさりとした妻の態度が印象的。
太宰の作品はどれもそうだが、女がとても力強いと思う。
夫の遊楽にもめげず、子供を育て、なんとかやりくりしている。

戦争のさなかも芸術意欲を燃やし、作品を書き続けた作家というのは少ない…と、
どこかで読んだことがあるけれど、太宰はその数少ない作家の一人。
無条件降伏の後の虚脱感、それを作品にも読み取ることができる。

作品の中の女は力強いと書いたけれど、引き換えに男の方は変わらない。
戦後の新しい日本の歩む道、希望の道を女性の力強さに見る反面、
常に付きまとう虚脱感が、作家のもがいている心情を投影していると思った。
テーマが分かりづらいな…と思うのも、そこかもしれない。
迷っている気持ちが分かるからこそ、救いようのない夫の行動も憎めない。

太宰治の作品は、その作家の家庭生活を垣間見れるものが多いが、
もしまあ、これが半分でも実話だとすると、大変な人だったのだろうなあ…。
「家庭の幸福は諸悪のもと」と言ってのけるように、決して純粋に家庭生活を楽しめる人ではなかったようだ。


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楽しい古事記

2009年03月18日 21:15

『阿刀田高』著 角川文庫 293ページ

「天地初発之時、於高天原成神名…」
この時点で、古事記はもぉいいか…読む気をなくしてしまう。
もともと外国語に近い古文を、初心者が原文から入るのは無理というもの。

阿刀田さんは入門書をたくさん書いているが、日本のものに着手したのは珍しい。
相変わらずの手腕で、難解な古事記もユニークに紹介してくれる。

基本的に、○○のミコト、○○のオオキミ、などの名前からして覚えにくい。
うんざりさせられ、読む気をなくす。その連鎖に必ず陥ってしまう。
初心者の私たちには、誰に注目して読むべきなのかが分からない。
そこをスムーズに解決してくれるから嬉しい。

アマテラス大神や、ヤマトタケルなどの有名な名前は知ってるが、
意外に何をどうした神様なのか、知らないことが多い。
読んでみて、大したことしてないんだな…というのが正直な感想(笑)。
阿刀田さんのいいところは、その伝承の紹介にとどまらず、
由来のある現地に赴いて、そこの感想も一緒に語ってくれるので、
さながら一種の紀行譚のような趣がある。

入門書だけあって、時代錯誤の指摘も簡単にすませ、
ストーリーとして楽しい部分だけを抜き出してくれる。
感想としては、聖書に似ているな…と。こういった歴史を語る書物には
よくあることだが、初期の頃の話は「伝説」のような人間離れした話が多い。
時代がすすむにつれて、戦争の話が多くなってリアルな歴史に近づいていく。
古事記も例外にもれずそれで、後半になってくると多少面白さも減速気味。

「楽しい古事記」というタイトル通り、冒頭に取り上げられている話は、
イザナギとイザナミが、ようするにチョメチョメするところから。
さすが、阿刀田氏は読者をひきつけるポイントを押さえてらっしゃる(笑)。
それ以外にも、古事記の書かれた時代背景や、思惑のようなものも勉強になりました。

日本人である以上、やはり古事記の内容は多少知っておきたいところ。
全く読んだこともなく、興味もない…という人には、お勧めの一冊。


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食卓はいつもミステリー

2009年02月26日 22:35

『阿刀田高』著 新潮文庫 243ページ

阿刀田氏の作品といえば、「~を楽しむために」、「~を知っていますか」などの
解説書シリーズが私の阿刀田始めでした。
新・旧の聖書からスタートして、アラビアンナイト・コーラン…
最近ではダンテやチェーホフといった個別の作家の入門書が出てるので嬉しい。

本来短編小説の天才といわれている作家のショートストーリーをあまり読んでないのは
失礼にあたるかもしれないですね。阿刀田さんの才能は他のジャンルにも及んで、
エッセイ・長編なども書いておられる。

今回のはジャンルにすればエッセイになるのだと思う。
そのタイトルにもあるように、「食」に関する色々な意見を4~5ページほどの短い文章の中に綴っておられる。
全部で45話あるけれど、1つのテーマでよくここまで多岐にわたった話題を広げたものだなあと。
ここはやはり、「閑話休題」がお好きな阿刀田さんらしい。
よくネタに困らなかったものだと野暮な意見は無用ということか。

話はそりゃもう枝葉のように広がり、「食欲」、「食事の夢」、「消化」、「美食」、「語源」、「習慣」と
いささか無理やりな気がしないでもない(笑)。ただ、話はあちこちに飛ぶ割に、
最後はなぜかうまいこと調和して形が整っている。生ハムとメロンを最初に食べたとき、
初めは本当にあうのかしら…と疑ってかかる感じから、ほほぅ…これは旨い、と変化する妙に似ている。

作家ならではと思う話として、エッセイの中で「柿の種」が好きだと書けば、
知人やメーカーから大量の柿の種が送られてくる。紅茶が好きだと書けば、
お歳暮に大量の…チョコレートが好きだと書けば友人が…。
と、目下何年分かの贈り物が届けられる。
いくら好物でもここまでくると…と、この先はハッキリ「きらいになる」とは書いてない。
けれど、タイトルは「好きな物を嫌いにする法」。
締め方は「おや、また玄関でブザーが乱暴に鳴っている」と、さすがに上手い。
送ってくれた人に失礼にあたらない、憎めない落とし方。

物語ではないのでストーリー性はないものの、起承転結の妙技が光る。読みやすい。
気軽に手にして、サクッと終わる。あいかわらず子気味よいです。
こういう作品を読むと、作家の人となりがよく分かりますね。


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走れメロス

2009年02月19日 22:09

『太宰治』著 新潮文庫 300ページ

太宰治の作品を読んでると、人生の浮き沈みがそのまま投影されてて面白いですねー。

自殺未遂して、ヤク中になって、今度は女と入水自殺。
自分だけ生き残るも、最後にまた自殺。
その経歴からくるインスピレーションは強烈なものだったに違いない。

今回読んだのは以下の9作品。

・ダス・ゲマイネ  ・満願
・富獄百景     ・女性徒
・駈け込み訴え  ・走れメロス
・東京八景     ・帰去来
・故郷

自伝と言ってもいい作品が多く、東京八景以下三作品は太宰治の人生を知る上で外せない。
文献的重要性もさることながら、その告白とも懺悔ともとれる語り口は、読んでいると時間を忘れます。
読者をその人生に同化させてしまうというか…この自伝のやり口はすごいなあと思いました。
とりわけまだ若いころの作品なんかは、太宰治の芸術にに対する葛藤なんかが読み取れるので興味深かったです。

代表作「走れメロス」は、自殺未遂後の再出発をした時に書かれたものだけど、
「この時はのびのびしてたんだろうなあ…」と苦笑してしまう。
暴君に対し、自分の親友を身代わりに立てるメロス。
「自分が三日目の日没までに帰ってこなければ、この友を殺せ」
と死刑の人質に置いていく。

これなんか、もし自殺前に書いてたらメロスは友を裏切ってたんじゃないか?(笑)
この時期だからこそ書けた…そんな気がします。

日本文学っていうのはこういうところも面白いんだな…。
有名作家同士のやり取りが作品の中に生きてたり、海外の影響を受けてたり・・・。
シェイクスピアが英語でないとその良さが分からないように、
日本文学はやっぱり日本人の体に合うのだろうなあ…。

あの富獄百景だってそう。昔から富士山になじんで、
どこかで心の誇りにしているであろう日本人でないと、あの良さは分からないんじゃないか…。

まだまだ日本文学には未熟な私ですが、徐々に…
「おもしろくなってきたなあ…」と実感するのです。


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チェーホフを楽しむために

2009年02月12日 22:08

『阿刀田高』著 新潮文庫 379ページ

文庫版が出るのを待ち望んでました!
「チェーホフ?よく分からん!」という感想だった私にとって、嬉しい一冊。

…とても面白いんだけど、何が言いたいかちょっと分かりづらいなー。
それがチェーホフの印象。それが何故なのか分かりました。
阿刀田さんも詳しく「ここはこうでね…」と手とり足とり教えてくれるわけではないが、
この時の作家の背景はこうだったんだよー、この時は苦しんでた時期で…とか、
そういう紹介が推考を重ねる上でありがたい。

「チェーホフは問題提起しても答えは出さない主義」
「ありのままの人間像を書く天才」

あ、なるほど。同じロシア作家でも、トルストイの明確な人生論みたいなのを想像して読んだら、そりゃ違うわ…。
「なんか曖昧な感じ…」そういうのはワザとだったのか…。

曖昧さにおいてはチェーホフの性格にもうかがえて、
彼の男女関係もつかず離れずだったそう。
愛を合理的に見ていたので、女性に対しては淡々としたところがあったらしい。
そう思うと、作品の中に出てくる男女のすれ違いも妙に色彩を帯びてくるんだから面白い。
深読みすればするほど、一つの短編の中に濃い要素を詰め込んでるなあ…と感心する。

最近書店でロシア文学が幅を利かせてるような気がするのは、
私のロシアびいきからくる気のせいなのでしょうか。チェーホフも人気があるとか。
いや、今の世知辛い世の中にピッタリの作家ですがね(笑)。

阿刀田さんの「チェーホフを楽しむために」を先に読んでると、
「そういうことを言いたかったのね!」というのが分かって味わい深くなること必至。
チェーホフは一つ一つの話が短いだけに、サラリと終わってしまうけれど、
それじゃ、すごくもったいない!ということを実感しました。


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銀河鉄道の夜

2009年02月05日 23:43

『宮沢賢治』著 角川文庫 281ページ

宮沢賢治の作品は、こんなに未完のが多いのだなあと驚きました。
というか、「銀河鉄道の夜」が未完だということを知らなかった…。

収録作品は以下の11作で、すべて未完成のもの。
・おきなぐさ            ・めくらぶどうと虹
・双子の星             ・貝の火
・よだかの星(ぶとしぎ)     ・四又の百合
・雁の童子            ・ひかりの素足
・虹の絵具皿(十力の金剛石) ・黄色のトマト
・銀河鉄道の夜

なんか今回は星の話が多かった気がします。
中学校か高校の時に、教科書に「よだかの星」が載っていましたが、
その当時は内容がよくわかりませんでした。
今読むとすごくいい作品だなあと思います。
生き物が生まれること、死ぬことの意味を考えさせられます。

基本的に宮沢賢治の作品では、心の美しいものが星になるというのが
ビヘイビアなのかなと思います。ただ美しいというのではなくて、
悩んだり、悲しんだり、後悔したりという心の葛藤をいうんですが。
テーマは重いし、作風は絵本的だから余計に胸が締め付けられるような気持ちになるというか…。

逆にはっきりと「~は~である!」と示唆される作風でこの味は出せないでしょうね。
万人が楽しめる絵本的作品。読む時期によって感じるところも変わっていく…。
そんな作品群なんだろうと思います。

銀河鉄道の夜は原稿が途中何枚か抜けていて、一番気になる
ジョバンニとカムパネルラが銀河を駆ける列車に乗った瞬間が分からない。
気がついたら銀河鉄道の車窓にいた…てな感じ。
正直、私の想像力では幼稚すぎて幻想的な世界が満喫できませんでした。残念。

面白かったのは「貝の火」。完成度も高くて、読みやすい。
示唆するところはハッキリと分からないのですが、
話の流れといい、結末といい、印象に残る作品でした。


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ドグラ・マグラ 上

2009年01月30日 18:55

『夢野久作』著 角川文庫 324ページ

一人の精神病患者が、白い部屋で目を覚ます。
自分が何者なのか。今はいつなのか。ここはどこなのか。
一向に判らない。隣の部屋からは自分の許嫁だという少女の叫び声…。

日本三大奇書といわれる本作の最初のシーンだ。
ここからしてすでに普通の推理小説とは違うな…という印象。

自分が何者であるのか、それを思い出すことによって「ある実験」が成功するという…。
つまるところ、その記憶喪失の男はある教授の実験材料として、
今の状態におかれているらしいのだが、すでにその教授は自殺しているとのこと。
そして、その教授の残した論文や遺書などをもとに、記憶の回復を試みる…。

一体何が思い出されるのか。
拍子に負けず劣らずの異様な雰囲気をかもしつつ、私たち読者も
その論文や遺書を読んでいくことになるのだが…。

その内容はたしかに、普通の人間には思いつかない。
夢想家というに相応しい。多少難しくしつこい内容に取れるところもあるが、
上巻の段階ではなんとも評価しがたい。
「キチガイ地獄外道祭文」、「脳髄論」、「胎児の夢」など、
精神科学研究の内容考察がいろいろ出てくる。タイトルからして異様。
…そして、内容も異常。文章の表現が独特なためか、いっそう薄気味悪さは増す。

「狂人の書いた推理小説」、「読んだら一度は精神に異常をきたす」という宣伝文句ですが、
この段階ではその評価には届かないかと思います。
夢野久作氏は、私的には推理小説以外の作品が評価が高いので、
この作品でその見方が変わるかどうか興味深いです。

以降、下巻へ期待…といったところでしょうか。


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夜は短し歩けよ乙女

2009年01月26日 22:30

『森見登美彦』著 角川文庫 320ページ

某嬢から借りた本。このブログを始めてからは、7冊目の紹介。
結構幅広く、色んな本を借りてますね~。彼女はセンスいいですよ、常に「新」を求めつつ、
古き良きものを大事にする、温故知新ガールです。好きなものは万華鏡と金平糖と…。
なので、読んだ時にもふと、彼女らしさを垣間見ました。

この作家さん、人気ありますね。独特の文体だからでしょうか?
昭和初期の作家風をイメージしているのだと思いますが、
本書の中に「メール」という言葉が出てくるように、内容は現代。
昭和風の書き方を「気取り」だと見ればそれまでで、人によるところ。
「~かしらん」とか、「オモチロイ~」とかいった表現は芥川とか、
太宰治とかあそこらへんの年代を彷彿とさせる。
私は少なくとも読むに抵抗なく、斬新でありました。

「どこまでも暴走する己のロマンチック・エンジンをとどめようがなく、
 やがて私はあまりの恥ずかしさに鼻から血を噴いた。
 恥を知れ。しかるのち死ね。」

内容は若干ファンダジーな恋愛小説。「黒髪の乙女」に思いを寄せる「先輩」が、
彼女を追い求めて、京都は先斗町を、古本市を、学園祭をと、珍事件を引き起こしつつ駆け回る話。
その先輩のストーカー…もとい誠実ぶりに声援を送り、
胸打たれ、笑いを引き起こされつつ、ストーリーは息つくことを許さない。

行く先々で起こる「偶然の出会い」に、黒髪の乙女は「奇遇ですねえ!」というばかり。
その天然っぷりがとてもカワユイです。この作品は、なんといっても
キャラクターの立つこと立つこと。個人的には、パンツ総番長と、李白翁が好きです。

京都は京阪沿線沿いの話だけに、身近な駅名や、神社、川や山が出てきて、情景が目に浮かぶようでした。
いつも影ながら当ブログに貢献してくれている某嬢に今日も感謝。
ちなみに彼女に借りた作品で紹介してきたのは以下の6冊です。

『お仕事のマナーとコツ』 …  http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-6.html
『インストール 』 … http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-28.html
『失はれる物語』  … http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-29.html
『宇宙の声 』 … http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-43.html
『旅ボン イタリア編』 …  http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-45.html
『恋愛辞典』  … http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-63.html


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奇妙におかしい話 どきどき編 寄せられた「体験」

2009年01月12日 22:32

『阿刀田高』選 光文社文庫 254ページ

この本は、読者から寄せられた短編小説を、
最優秀作、優秀作10作、佳作20作集めている。
テーマはタイトル通り「奇妙におかしい話」。
専攻は短編小説の達人、阿刀田高氏。

まあ、読者から寄せられたものだから…と、甘く見ていたけれど、
思ったよりすごい。文章も上手いし、テーマがアレなだけに面白い。
特に最優秀作は、「阿刀田さんが書いた」と言われても、
ふうん、と納得してしまいそうになるくらい上手い。

体験に基づく話なので、書いた人の身に起こったことで、
妙な偶然の話から、ちょっと薄気味悪い話、笑える話など、色々。
共通して言えるのは、やっぱり阿刀田さんの作風に似てるということ。
あの文章力や表現力は憧れますよねえ…。

個人的に思ったのは、年配の人の作品は「なんか、味があるな…」ということ。
文章も飾りがなくて、見せるための文章でない感じがしたので。
ラジオのリスナーから寄せられた話の高尚版といった感じでしょうか。
こういうの書ける人っていうのは、ホントすごいですね。それに、性格出ますね(笑)。

私はあんまりこの手の本は読まないタチですが、
軽くて読書に疲れた時に、気分転換になる本ですね。


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ストロベリーナイト

2008年12月28日 20:33

『誉田哲也』著 光文社文庫 435ページ

珍しく、刑事もの。
「グロいよ~食事のときには読まない方がいいよ」
と、職場の先輩に言われて貸してもらった本。
同僚も読んでたみたいで、「グロかった?」と聞いたら、
「んーそうでもないかなあ…」と。
私的には、「まあ、ちょっとグロいかな」くらい。

溜池近くの植え込みから、体中に無数の傷がついた死体が発見される。
何故かへその下から股間にかけて、一直線に切断されたあと…。

捜査一課の姫川玲子は、持前のプロファイリングセンスで、そこに違和感を覚える。
事件は「ストロベリーナイト」という謎の言葉とともに真相に迫っていく。

犯人が複数というのが途中でわかるんですが、推測は全員見事に外れました。
面白かったのは、味のあるキャラ達。博識な先生、ライバル刑事、恋も中途半端に終わったので、
続編あるのかな?と思ったら、「ソウルケイジ」「シンメトリー」と、案の定続いている。

ガチガチの刑事ものではなくて、主人公のヒロインが過去に心の傷を負って、
それを乗り越えていくところなんかは、ドラマチック。
ほとんど、こういうのを読まなかったので、
他の推理小説と、どこがどう違うのか分からなかったのですが、
割と人間味に重点を置いている作品であるかなと。

殺人のシーンなんかは、描写がストレートなので、
少し引いてしまうところもあり。
苦手な人にはお勧めできません。


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新諸国奇談

2008年12月27日 13:07

『阿刀田高』著 講談社文庫 322ページ

読めば読むほど、阿刀田さんはすごい!と思う。
そのタイトル通り、諸国の伝承や神話を材料にした短編小説なのだが、
その「諸国」といっても範囲が広い。

中国、ヨーロッパ、ベトナム、ロシア、ブラジル、エクアドル…などなど。
これだけ幅広い知識を得るには、並大抵の勉強では無理だと思う。
阿刀田さんがすごいのは、その一つ一つの事象に関連して、
他の物語などから共通点を見出してくる才能だ。

例え話ができるということは、物事の関連性を見つけることができるということ。
つまり、頭のいい人だと、ショーペンハウアーは言っていた。
キリストやブッダなど、カリスマ達はやたら例え話を用いる。
それに妙に説得力があるものだから、やっぱこの人スゲエ!ってなるのかも。
阿刀田さんもその能力が顕著に出てる作家で、そのせいか
エッセイなどを読んでても、話があっちこっち飛ぶ(笑)。

こういう伝承の類は、抽象的な話が多く、人によって好みは分かれる。
また、知らないよりか、知っている方が楽しめる事だって多い。
例えば「美しい眼」という話では、トロイア戦争からの帰路、
オデュッセウスが漂着した浜で遭遇する、単眼巨人のキュクロプスを題材にしている。

言い伝えの場所と、実際の位置関係を計算してみると、
現実的にはそこに漂着するのは難しいんじゃないかというところに焦点を当てて、
それを上手く題材として薄気味悪い小説を作り上げる。
阿刀田さんの博識ぶり、着眼点の鋭さが光る。

しかし、この人はほんっとに歴史とか伝承が好きなんだなあと作品を通して感じる。
長年の情報収集と、現地取材の賜物を、こうして私たちが作品を通して読めるのはありがたい。
そして、この文章の巧さ。ムダな贅肉の全くないスレンダーな文。
一日とかからずに読めてしまうが、内容の濃い一冊です。


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人間腸詰

2008年12月17日 22:33

『夢野久作』著 角川文庫 250ページ

アメリカはセントルイスで開催された大博覧会。
大工の治吉は、そこで日本の専売「台湾烏龍茶」の売り子をするため渡米した。
そこで出会った支那人の美少女に出会う。
その美女はこちらに流し目を送ったり、しなを作ってみたりと、どうも治吉に気がある様子だ。

ある夜、治吉は外出禁止の命令を犯して、その美女ついていく。
到着したところは、アメリカでも指折りのギャング、カント・デックの館だった。
大工として腕のいい治吉に目をつけたのは、その技術をもってして
錠前を使わずに開ける箱を作り、その開け方を自分にだけ教えてもらいたいがため…である。

これはクサいぞ…と思った治吉は、その頼みを拒否するが、
カント・デックは帰してくれそうもない。大きなソーセージ製造機械を目の前にして治吉に迫る。

「あなた、この中に入ること好きですか?」

こういう類の話はよくあるけれど、夢野久作のは締め方がうまい。
気持ち悪っ…で終わらせるのではなくて、薄気味悪っ…って感じ。
ドグラ・マグラという代表作もあるので、推理小説家だという印象がありますが、
私にはどうも、それ以外のジャンルの方がクオリティが高い気がします。

この本にも8本の作品が収録されていますが、そのうち3作が推理物。
読んでみると、やっぱり「人間腸詰」よりかは劣る気がします。
タイトルが「人間ソーセージ」なだけに、どうしても第一印象が強くなってしまうからか。
しかし、晩年に書かれた「戦争」なんかは、グロテスクを通り越して、
むしろ人間の心理が怖っ!!って感じました。

「人間腸詰」も、グロテスクはグロテスクなんですが、それだけの小説なら
あんまり面白くないのではないかと思います。
夢野久作は狂人だとよく言われてますが、人間の奥底の心理、
その怖さを表現できる作家だからではないかと感じます。


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一千一秒物語

2008年12月17日 00:13

『稲垣足穂』著 新潮文庫 429ページ

少し読むには芸術センスが無さすぎたかな…。
読み終わるまでにとても時間がかかった一冊。
たしか二ヶ月くらい前に借りたような…(汗)。

いながきたるほ…んん、どこかで聞いたことがあるくらいだけど…。
「一千一秒物語」というのは、何度か他の本の後書きで紹介されていたので、
私も一度読んでみたいと思っていました。

新潮文庫のほかに、ちくま文庫でも出版されているが、
コチラは9タイトルを収録している。

・一千一秒物語   ・黄漠奇聞
・チョコレット     ・天体嗜好症
・星を売る店     ・弥勒
・彼等         ・美のはかなさ
・A感覚とV感覚

代表作である「一千一秒物語」には絵本的な世界が見られるが、
「美のはかなさ」なんてのは、何度読み返しても意味が分からない…。
完全な知識不足…ズーン。

「一千一秒物語」について言えば、詩的感覚が強く、200編くらいの短編が収録されているが、
~IT'S NOTHING ELSE~
 A氏の説によるとそれはそれはたいへんな どう申してよいか びっくりするようなことがあります それでおしまい

と、いった具合で続いていく。物語としてのストーリーを有して一番読みやすいのは「チョコレット」だが、
こちらも言わんとすること、テーマを読み取るのが難しい。
文章を見る限り「モダン」の一言に尽きる。1923年に出版された作品とは驚きだ。
そういえば貸してくれた友人も、芸術を愛するちょっと(かなり?)変な青年なのですが、
センスのある人のファンが多いのでしょうか。残念ながら、私にはこの美しさが想像力のエネルギーにならなかったようです。

稲垣足穂氏は、その後の作品はすべてこの「一千一秒物語」の注釈であるという。
他の作品と言えば、フロイトが出てきたり、デカンショの理論が出てきたりと、小難しい。
うぬぬぬ…やっぱり読書家を目指すのであれば、心理学と基本哲学は外せないのかしらん。

さりげに面白かったのは「A感覚とV感覚」。Aは所謂体の後ろの穴で、Vは女性の前の穴。
何故かこういう作家の人って、不思議に少年愛の傾向を持ってる人いますね。
ちなみに稲垣氏は「少年愛の美学」という作品も発表している。


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古畑任三郎2

2008年12月14日 01:02

『三谷幸喜』著 扶桑社文庫 253ページ

先日紹介した1巻に引き続き、2巻のご紹介。
1巻参照→http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-249.html

「ザ・マジックアワー」は皆さん見られましたか?
http://www.magic-hour.jp/index.html
終始笑いっぱなしで、私的にはかなりGOODな映画でした。
三谷さんの作品では少し前の「THE 有頂天ホテル」も見ましたが、これも良かったです。
古畑シリーズというと、ガラリと印象を異にするジャンルですが、
読んでると「あー、やっぱ会話のテンポが三谷さんだわ」と思うことしばしば。

収録は1巻同様5本。

・ちなみの家
・さよならおたかさん
・中川外科部長のコート
・迫坪秘書の長い夜
・木暮警部最後の事件

最後の木暮警部の話は特にお気に入り。
よく古畑さんは罠を仕掛けて犯人にボロを出させますが、今回もその手で解決します。
テレビで見た方は知っているでしょうから、あえてここで内容を紹介しませんが、
いや全く人間て基本的なことで騙されるもんですね。

前にホームズを読んだ時に「水の近くで重いものがなくなってると、必ず何かを沈めている」という
セリフがありましたが、なるほど、たしかに。そういう何気ないことを普通の人は注目しない。
作家というのはこういうところに常に注意を向けてネタ探しをしているのかしらん。

JALのCMで踊っている三谷さんを見ると、ホントにこの人が書いてんのかな…と思うこともあるけれど(失礼)。
しかし、この人は多才ですね。サラリーマンNEOに出演してた時にそう思いました。

ちなみにこの2巻で小説版は終わりです。
元ネタがあるので、他の人に書いて出版することは可能だそうですが、
大変な産みの苦しみを経てできた作品たちを、やすやすと人に任せたくないそうです。
私も三谷さんタッチだから面白いと思うので、それがよいだろうなあと思います。

参考までに「サラリーマンNEO」
http://www.nhk.or.jp/neo/(動画:新しいネクタイの結び方講座は必見です)


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古畑任三郎1

2008年12月06日 01:00

『三谷幸喜』著 扶桑社文庫 228ページ

ああ…今更だなんて言わないで下さい…。
随分前に借りたのに放置していた本…貸してくれた某氏…ゴメン。

推理小説を文学にするのは本当に難しい…と私は常々思うのですよ。
「文学は何かしら自分に得るものがある!」と固く信じて疑わない私にとって、
どうしてもこの推理小説というジャンルにそれを見出すのが難しいのです。

しかし面白い。小難しいことを考えずに、読み終えたときに
「は~、面白かった」と純粋に思えればいいじゃない。と、昔言われたことがある。
ドストエフスキーとか、トルストイとか、そんな本を読んでるわけじゃないんだから…と。
たしかにそれはそう。推理小説の価値をどこに感じるかによって、それは変わるのだから。

それにしてもホームズシリーズは例外だと思う。
あれは「推理小説を文学まで高めた」といえる傑作だと思う。
多くの教訓も与えてくれるし、推理もユニークで、トリックも面白い。そして何といってもあのキャラ。
この古畑警部補もそうだし、赤川シリーズもキャラが光る。
最近で言えば、東野圭吾氏の作品もキャラが光っていますね。
もちろん推理要素も大事だけれど、これらの作品はキャラクター性がヒット要素だと思います。
知ったような口きいてますね、すいません。

さて、フジテレビ系で放映されていたときに見ていた人も多いでしょうから、
今回は内容は置いといて、そのタイトルだけ紹介しておくと、

・おめでとう、アリ先生
・六代目の犯罪
・幡随院大、走る
・黒田青年の憂鬱
・井口薫のレクイエム

以上5つを小説版に収録。
犯人の視点から話が展開するので、最初から誰が殺したか分かる。故にワトソン訳の今泉氏は出てこない。
一話が丁度いいくらいに区切られてて読みやすい。手の空いたときに読めてしまうから嬉しい。

やっぱりドラマ見てると田村正和のイメージが強いですね(笑)。
見てても見てなくても、そこは上手くマッチングするのでご心配なく。

関係ないですが、三谷幸喜氏と、阿刀田高氏…、この二人の作家は
ものすごい気が合いそうな気がするのですが、そう思うのは私だけでしょうか…。


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美少年

2008年11月11日 00:50

『団鬼六』著 新潮文庫 274ページ

嗜虐的官能小説の巨匠、団鬼六の作品の中で、
「ホモセクシャル・少年愛」という分野のものは数少ない。

「美少年」とは、日本舞踊宗家御曹司の風間菊雄。
後年の小説を書く際に、その時の美少年が犯される様を思い出さずにいられないと言わしめるほど、
作者の印象に残った事件だったそうですが、これって本当にあったことらしいです。

大学生時代の作者が経験した事らしいのですが、当時所属していた軽音楽部の隣に、
邦楽部があったそうで、そこに入部したのが当の風間菊雄だったそうです。

女性よりも女性的な妖美さを持つ菊雄に、特別な感情を持つようになった作者。
ただ、久美子という彼女を持っている手前、事が大っぴらになることを避けて、
「自分はホモじゃない」と世間には弁解していた。

菊雄と体の関係になったものの、根本的にノーマルであった自分は、
ホモ同士が行うアナルセックスの知識も全く持ち合わせておらず、
性行為も「いかせてもらう」だけで、菊雄は相手が寝入ったのを見て自慰にふけるのだった。

そんな中途半端な関係だったが、ついにそれが久美子に露呈し、迫られる。
同時に菊雄とのトラブルが重なり、不仲になっていたたので、
かねてから「菊雄をやらせろ」と言っていた「山田」に菊雄をレイプさせることにする。
そうすることで、トラブルの鬱憤も晴らし、手切れにしようと考えていたのだった。

普通に考えたらスゴイことだけれど、作者自身もその時はどうかなっていたと告白している。
下宿にやってきた菊雄を、自分と山田、そして山田の女であるマリ子が待ち受け、
来ているものを脱がせて、ロープで吊るしあげる。
その後、菊雄は愛している男の前で無理やり射精させられるという凌辱を受ける…。

途中から彼女の久美子も加わって、菊雄は色々とされちゃう訳ですが、
こんなことが本当に有名な団鬼六の過去にあったのかと思うと、
にわかに信じがたい思いにかられるのです。

嗜虐的官能小説!というからには、どんなプレイがあるのやら…
と微妙に期待を寄せつつ本書を開いてみたわけですが、作者自身は基本的に本人はノーマル寄り。
むしろ周りの人間がアブノーマルな訳ですが、こういった類の趣味を持つ人たちは、互いに呼び合う波長でもあるのでしょうか。

登場する人物というのは、実に異様。
責める側もさることながら、受ける側も異様。
ただのSMプレイとして我々が楽しむ世界ではなくて、それを誇りに思うふしさえある。
その点は、収録されている「鹿の園」を読んで頂けるとより理解できると思います。

他にもピンク女優の谷ナオミの半生を綴った「妖花」などは、とても興味深い。
官能小説というのも、古き良き時代というのがあったのだなあと思わせる作品群でした。


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食べられた男

2008年10月15日 21:39

『阿刀田高』著 講談社文庫 265ページ

こりゃあ活字嫌いな人も、読んだらハマるんじゃないかな~。
ブラック・ユーモア溢れるショートショート集。全42編。

重い話題も阿刀田テイストで読むと、あーら不思議、こんなにとっつきやすく。
作品みてると、「あ~阿刀田さんっぽいなあ…」と思うものばかり。
シンプルで必要な言葉を厳選した感じ。無駄がない。

基本的に薄気味悪い話が多いので、イメージとしては「世にも奇妙な物語」。
とにかく読みやすいのが今回は一番のポイント。
最近、読書をする時間が減ったせいか、文を目で追うのにいつものスピードが出ず、イライラしてました。
こんな時に読むのはやっぱり阿刀田さんや、赤川さんあたりの作家に限りますねー。

今回も一作だけ紹介を。

夜遅くまで残っていたサラリーマンが、誰もいない廊下を歩いて帰ろうとしていた。
ロッカールームはひっそりと静まり返って薄気味悪い。
ふと、同僚だったN君のことを思い出した。一目見た時から気の弱そうな印象のN君。

N君が配属されたのは、一番底意地の悪いS課長のところだった。
一種のサディズムな新人イビリは、N君を自殺へ追い込んだ。
屋上からの飛び降り自殺だった。遺書はなかったが、言いたいことはきっと沢山あっただろう。

歩いていると、ふと青白い顔が目に浮かんだ。
おや?と思うと、それは次第に輪郭をあらわにしてN君の姿になった。
「…N君!迷わずに成仏してくれ…!」

しかし、N君は黙ってこちらを見つめている。
なんでそんな目つきで私を見るんだ。私は何もしてやしない。見当違いもはなはだしい。
「キミ、お門違いだ。化けて出るのならS課長の所へ出ろ」
怯えながらも私はそう言った。

しかし、N君は悲しげな歌うような声で言う。
「でも、怖くて。オレ、S課長の所へは出られないんだ」

こんな感じのショートショートが続くので、テンポのいいことったらない。
この手のユーモアは、人によって気にいるか気に入らないか分かれるところですね。
私は高尚なセンスだと思っているので、とても気に入っています(笑)。


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注文の多い料理店

2008年10月03日 18:35

『宮沢賢治』著 新潮文庫 358ページ

今回は宮沢賢治のイーハトヴ童話「注文の多い料理店」の全話と他10作を集録した本へ挑戦。

・イーハトヴ童話収録作品       ・ その他10作
  序                       雪渡り
  どんぐりと山猫               ざしき童子のはなし
  狼森と笊森、盗森             さるのこしかけ
  注文の多い料理店            気のいい火山弾
  鳥の北斗七星               ひかりの素足
  水仙月の四日               茨海小学校
  山男の四月                 おきなぐさ
  かしわばやしの夜             土神ときつね
  月夜のでんしんばしら           楢ノ木大学士の野宿
  鹿踊りのはじまり             なめとこ山の熊

だいたい年代順に並べられているけれど、どれも甲乙付け難い。
評論家でないなら、これが一番!という作品は読み手で大きく異なると思う。

どれも20ページ前後で終わるため、読むのに区切りやすい。
しかし、話は短くても、その初めの数行で宮沢ワールドへ取り込む手法はさすが。
たちまちその世界が目に浮かぶのです。

「そのとき西のぎらぎらのちぢれた家のあいだから、夕陽は赤くななめに苔の野原に注ぎ、
すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました」
                                      (鹿踊りのはじまり 冒頭部分)

私たちが雄大な自然を前にしたとき感じるあの恍惚感。
アドレナリンが大量に出ている時に、宮沢賢治のペンが動いたのでしょうか?

「ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風の中に、
ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。
ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです」
                                            (イーハトヴ童話 序)

「鹿踊りのはじまり」で、主人公の嘉十は、鹿たちがぐるぐる踊る輪の中に我を忘れて飛び込んでいってしまいます。
本当は誰しもこんな心を持っているのかもしれません。
アーティストは芸術を表現するときに、「ここはジャーンって感じ」と、曖昧な言葉で言いますが、
それは仕方のないことなのかもしれません。
宮沢賢治も独特な擬態語・擬音語でできる限りありのままを表現しようとしたのではないでしょうか。
伝えにくくもどかしい、しかしすばらしい自然や動物たちを。


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坊っちゃん

2008年08月23日 00:44

『夏目漱石』著 角川文庫 173ページ

夏目漱石の作品では一番読まれている方なので、今さら紹介する必要はないかもしれません。
以前、松山へ旅行に行った友人が、名物「坊っちゃん団子」をお土産にくれました。
ははあ、これが坊っちゃんが食べた団子かあ…それにしてもデカいな。
愚直な主人公の性格が滲み出ているような大きさでした。一気に全部食べた日には、胃もたれ必至。

ストーリーは、漱石自身が松山へ教師として一年間赴任したのをモデルに描いている。
主人公の「坊っちゃん」は、江戸っ児をもって任ずる若い教師。
冒頭の書き出しは、その作品全体を形容していて、
「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」とある。
イタズラはするけど、罰は受ける。どこまでも正直で真っすぐな性格だ。

田舎へやってきたはいいけれど、嘘やいつわりに満ちた社会構造に愛想を尽かす。
教頭がその権力をもってして、恋敵を転任させてしまうところだの、
人間関係はドロドロしている割に、作風がコミカルなので笑うシーンが絶えない。
ユーモアと歯切れのいい表現が、爽快で読みやすく、角川文庫なので漢字も易しい。注釈も助かる。

特に興味をそそられたのは、巻末の解説と、作者の紹介。
自分の教師時代の事を書いた小説だと思いがちだが、
漱石自身はまじめで教養があって、学問はどうあるべきかを中学生にも教えるような人間だった。
とても「坊っちゃん」のように、正直だけど少し頼りない教師ではなかったようだ。

日本文学は奥が深いとはよく言ったもので、この作品も単純に見ると面白いが、核になる部分は濃い。
一回読んだだけで、その意図するところが分かるとは思えない。

正直者の坊っちゃんは、最終的には不名誉な誤解を被せられてしまう。
陥れた教頭を「もう許さん」とばかりにボコボコにするが、結局それは自己満足で、
教師を辞めて東京に帰ってしまう。勧善懲悪でもないし、悪く言うと負け犬だ。

物語としては、教頭が女遊びをしていることを世間にバラして、
坊っちゃんの名誉が回復して、正義は貫かれる!という勧善懲悪を期待するが、結末は現実的だ。
それは何故か?漱石がこの時代に感じていたことや、「正義」に対する想いと限界も感じさせる。

笑える作品なだけに、その面白さが前面に押し出されてしまい、肝心の部分が見えてきにくい。
漱石自身もそこは反省しているらしく、「ちっと面白く書きすぎちゃった」的なことを言っている。
しかし、この作家はすごい。読解力を上げるには日本文学が一番いいと思わずにいられない作家だ。


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